皆さんは「TOT1899.com」をご存知でしょうか。
東京ディズニーシーの「タワー・オブ・テラー」がオープンした2006年、このアトラクションの世界観やバックグラウンドストーリーを体験することができる公式プロモーションサイトが公開されていました。
それが「TOT1899.com」です。
当時このサイトを見たことがある方も多いと思いますし、見たことがなくても話には聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
やがてこのサイトは役目を終えて閉鎖され、さらに月日が経過するとドメインそのものがオリエンタルランドの手を離れました。そして2025年、私は幸運にもドメインオークションでこれを獲得することができました。
この記事では、TOT1899.comとはなんだったのか、そしてTOT1899.comドメインを今後どのように扱っていくのか、その方針について私の考えをつらつらと書いていきます。
TOT1899.comとは?
TOT1899.comは、東京ディズニーシーのアトラクション「タワー・オブ・テラー」のために作られたプロモーションサイトです。
東京版「タワー・オブ・テラー」がオープンしたのは東京ディズニーシーの開園5周年にあたる2006年9月4日でしたが、TOT1899.comのティザーが公開されたのはその4ヶ月前の2006年5月11日でした。当初は短いイントロダクションだけでしたが、その後、登場人物のプロフィール、新聞記事、取材メモ、映像などが順を追って追加されていき、少しずつストーリーが明かされていくような作りでした。
2006年7月ごろには、TOT1899.comの代表的コンテンツである「ホテルツアー」が公開されました。
「ホテルツアー」は、ベアトリス・ローズ・エンディコットとマンフレッド・ストラングが夜のホテルハイタワーを調査する様子を、会話と画像を交えながら読み進めるノベルゲーム形式のコンテンツです。TOT1899.comの中ではこのゲームが一番有名ですよね。

短くて覚えやすいドメインこそ正義
TOT1899.comに立っていたサイト名称は「TOWER of TERROR」というものでしたが、なぜこのサイト名称ではなく、TOT1899.comというドメイン名そのものが我々の記憶に根強く残っているのでしょうか。
その理由のひとつは、2006年当時のWebマーケティングに理由があります。
当時、Webサイトへの誘導は今に比べて圧倒的に困難でした。
現代であれば、特定のWebページへ紙の広告や商品といった物理的な媒体から誘導したい場合、QRコードを掲載するのが一般的です。ユーザーにスマホでQRコードを読み取らせさえすれば、すぐに目的のページを見せることができるからです。
しかし2006年当時はそうはいきませんでした。それは当時の携帯電話(いわゆるガラケー)のスペックの低さに理由があります。

QRコードそのものは2006年当時にもすでに普及していましたし、QRコード読み取り機能を搭載したガラケーも登場していました。しかし、当時のガラケーで表示できるWebサイトと、デスクトップPC向けWebサイトの間には、現在よりもはるかに大きな格差がありました。当時のガラケーは現在のスマートフォンよりも性能が低く、ガラケー向けには、文章と軽量な画像のみで構成された専用ページが用意されることが一般的で、デスクトップPC向けに作られたリッチコンテンツをそのまま実行させるには性能的な限界があったのです。
QRコードを読み取らせて携帯電話向けページへ案内することはできても、本当にユーザーに体験させたいTOT1899.comのリッチなFlashコンテンツを体験してもらうためには、デスクトップPCからアクセスしてもらう必要があったのです。
もちろんデスクトップPCはQRコードを読み取ることができません。そこで重要になるのが、短く、覚えやすく、入力しやすいドメイン名です。
広告を見た人に「TOT1899.com」というドメインを覚えてもらい、ブラウザのURL欄に直接そのドメインを入力させたい、この行動を促すためには、ドメイン名が短く、覚えやすく、入力しやすいことが重要です。その観点で「TOT1899.com」は非常に理想的な文字列だと思います。
2006年当時、新聞広告、チラシ、関連グッズなど、さまざまな場所にこのドメインが繰り返し提示していました。
以下の画像は、実際に当時配布されていたチラシです。サイト名は記載されず、ドメインがでかでかと記載されています。
(ちなみに、小さくQRコードが載っていますが、ガラケーでこれを読み込んだとしても、ガラケー向けの簡易ページが表示されるだけです。)
www.asayan.tk
実際、サイトが閉鎖されて長い年月が経った今でも、私たちは「TOT1899.com」という文字列を強く覚えています。これは当時のプロモーションが成功していたことを示していると言えるかもしれません。
なぜTOT1899.comは閉鎖されたのか
アトラクションのオープンは2006年9月4日でしたが、その4ヶ月前の同年5月11日にTOT1899.comは公開されました。
その後、アトラクションのオープンに向けて段階的にコンテンツが追加され、同年7月ごろには「ホテルツアー」が公開されました。9月4日にタワー・オブ・テラーがオープンした後もサイトは残り、アトラクションの背景を深く知るための公式コンテンツとして利用され続けました。
そこから約4年後、2010年あたりまではまだサイトは生存していたようですが、その後、突然予告なくサイトが閲覧できなくなり、TOT1899.comへアクセスすると通常のアトラクション紹介ページへ飛ばされてしまう状態になりました。
サイトが閉鎖された理由について、オリエンタルランドから公式な説明が出ているわけではありません。そのため、ネット上ではさまざまな噂が囁かれました。
私が見たことある噂だと、「Webサイトが怖すぎたために閉鎖された」とか「Webサイト側の内容が濃すぎて閉鎖された(アトラクション本体を霞ませてしまうから)」といった話などですね。
都市伝説としては面白いですが、最も自然な理由は、シンプルに開業プロモーションとしての役割を終え、公開を続けるためのコストに見合う効果が期待できなくなったからだと思います。
Webサイトは、完成したものをサーバーに置いておけば、永久に無料で公開できるわけではありません。
サイトを建てておくだけでもドメインやサーバーに料金がかかりますし、それを企業として管理しているのであれば、障害の監視と対応、ブラウザやFlash Playerのバージョン変化への対応といった人的工数が必要になります。Webサイトは放置しておけるものではないのです。
さらに、TOT1899.comにはさまざまな協力会社が関わっていたことも重要な点です。
当時の制作には、インタラクティブコンテンツ制作を手がける企業である「株式会社バスキュール」が関わっています。この会社の公式サイトに掲載されていたアーカイブには、TOT1899.comのFlashコンテンツの制作実績が掲載されており、クライアントが「株式会社オリエンタルランド」、広告代理店が「株式会社電通」であることが記載されています。
TOWER of TERROR
株式会社オリエンタルランド
東京ディズニーシーに2006年9月4日にオープンする新アトラクション「タワー・オブ・テラー」。そのバックストーリーを会話劇で紹介していくインタラクティブ・ツアーです。 1899年12月31日。ニューヨークにあるホテルハイタワーで事件が起きた。オーナーであるハリソン・ハイタワー三世が、シリキ・ウトゥンドゥという偶像とともに乗り込んだエレベーターが落下。ハイタワー三世は姿を消し、以後ホテルは閉鎖された。13年後、事件の真相に迫る新聞記者ストラングと、ホテルの芸術的価値を評価し保存運動を進めるベアトリスが、ふたりでホテルに忍び込む。そしてそこで体験するのは…。 ディズニーの世界の奥深さに圧倒されながら、「夢を売る仕事」に加担することの誇りを感じながらの制作の日々。ツアーの隅々に情報を仕込んであります。どうぞどっぷりとお楽しみください。
https://web.archive.org/web/20060925132713/http://www.bascule.co.jp/
- Agency/電通
- Producer/朴正義
- Project Manager/早田剛
- Art Director + Designer/竹内真
- Techinical Director + Programmer/原ノブオ
- Designer + Programmer/軸屋亮太
- Programmer/萩原俊矢(flapper3)
- Sound Designer/中岡将二郎(bitztream)
- Copywriter/小玉豊
- 制作協力/草薙
ここから、少なくともTOT1899.comを代表するFlashコンテンツが、オリエンタルランド単独の内製物ではなく、複数の外部スタッフ・協力会社が関わる本格的な広告制作物だったことが分かります。
TOT1899.comに含まれていたデザイン、プログラムなどについて、実際にどのような契約が結ばれていたのかは知りようがありませんが、公開を継続するために契約管理、工数、費用などが必要だったことは確かです。
したがって、TOT1899.comの閉鎖に深い理由はなく、開業プロモーション用に外注制作されたキャンペーンサイトが役目を終えて、維持コスト削減のために通常どおりクローズされたと考えるのが最も自然だと思います。
もちろん真実はわかりませんが!
TOT1899.comが復元不可能な理由
今この記事を読んでいる方の中には、Wayback MachineなどのWebアーカイブサービスでサイトの閲覧を試みたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私もそんなチャレンジャーの一人でした。しかし実際に復元できたのは簡易的な入り口のページだけで、本当に見たかったゲームなどのコンテンツは復元できなかったはずです。
これは実行環境が問題なのではありません。ゲームを構成していたファイルそのものがアーカイブに保存されていないのです。無いものは無い。
一般的なWebアーカイブは、「クローラー」と呼ばれる自動プログラムを使ってWebサイトを巡回します。
クローラーは最初に入り口のHTMLを読み、そこに記述された各ページのHTMLや画像、その他Webサイトを構成するファイルのURLを見つけます。そのURLを順番に取得し、さらにそこから新しいリンクを探します。この処理を繰り返すことで、Webサイトを端から端まで辿って芋蔓式にファイルを保存していきます。

では、TOT1899.comの場合は、なぜほとんどの主要ファイルが保存されていないのでしょうか。
それは、TOT1899.comの主要なコンテンツがFlash製だったことに起因しています。実は、クローラーとFlashサイトはかなり相性が悪かったのです。
当時の一般的なクローラーが得意なのはHTMLを読むことであって、Flashファイルを読めるようには作られていませんでした。
つまり、HTMLに通常の形で書かれたリンクであれば、クローラーは簡単に辿ることができますが、Flashファイルの中身は読めないので、Flashから別のFlashファイルや画像ファイルへつながった構造になっている場合は、全く辿ることができないのです。

私が残存データを調べた範囲では、TOT1899.comのホテルツアーは、おおむね次のような多段構造だったと考えられます。

HTMLに記載された、Flashの入口となるファイル(index.swf)を読み込み、そのFlashがゲーム本体のFlash(totBase.swf)や、画像、音声などを追加で読み込む構造です。このtotBase.swf にホテルツアーを始めとする重要なプログラムが実装されていたようですが、これは入口のFlash、index.swf から繋がっていました。
HTMLから直接繋がっている入口のFlash、index.swf はしっかりアーカイブに保存されています。しかし、クローラーはそのFlashから指定されている次のFlashファイルを発見できません。結果として、Flashファイルは入口となるindex.swf は保存されたものの、その他のtotBase.swf を始めとした主要ファイル群は軒並み失われてしまったのです。
閉鎖後のTOT1899.comの歴史
2010年周辺にTOT1899.comの公式プロモーションサイトは突如として閉鎖されましたが、その後もしばらくの間、このドメイン自体はオリエンタルランド側で管理されていたようです。
この期間TOT1899.comにアクセスすると、東京ディズニーリゾート公式のタワー・オブ・テラー紹介ページへリダイレクトされる状態になっていました。
ドメインは、一度取得すれば永久に所有できるものではありません。一年ごとに更新料金を支払う必要があり、更新されなければ所有権は失われ、だれでも取得できるフリーの状態になります。
ドメイン単体の更新料金は小さなものです。(ものにもよるけど大体1000円/年くらい)。
それでも、すでにキャンペーンを終了しており、今後使用する予定もないドメインを管理し続ける必要はないと判断されたのでしょう。
しばらくするとドメインの更新すら行われなくなり、TOT1899.comはフリーのドメインになりました。
それ以降、TOT1899.comでは、タワー・オブ・テラーとは無関係なWebサイトが公開されては消える状態が繰り返されました。これが2024年まで続きました。
知名度や検索順位が高くなっていたドメインであるため、商業価値を感じた人や業者が取得していたのでしょう。しかし、期待したような商業効果は得られず、取得者たちはドメインは手放していったのだと想像しています。
取得したドメインにどんなサイトを建てるかは権利者の自由なので、なんら問題はありませんが、TOT1899.comのファンとしては当時の状況にはちょっと思うところがありました。
そんな中、2025年に転機が訪れます。
TOT1899.comの前所有者がドメインを手放し、ドメインオークションが開催されることになったのです。
私もTOT1899.comのファンだったため、また「タワー・オブ・テラーとは無関係なサイトが建てられるくらいなら」と思いオークションに参加し、幸運にもドメインを取得するに至りました。
サイト復元は可能なのか
TOT1899.comのドメインを取得したとはいえ、果たして当時の公式プロモーションサイトを復元することは可能なのでしょうか。
結論から言えば、当時のTOT1899.comの完全復元は不可能です。
理由は二つあります。
一つ目は、サイトのリソースそのものが失われていることです。
前述のとおり、TOT1899.comのリソース(プログラムや画像データ)はほぼ残っておらず、復元しようにもそのためのリソースがありません。
そして、復元できない二つ目の理由は、著作権の問題です。
仮に、奇跡的にだれかがリソースを保存していて、それを私に提供してくれたとしても、それをそのままTOT1899.comに公開することはできません。
画像、音声、プログラムなど、サイトを構成するデータには著作権が存在し、それらはオリエンタルランドをはじめとする権利者に帰属するからです。
私が持つのはあくまで「ドメイン」の所有権であって、そのドメインに昔建てられていたサイトのリソースの著作権を持つわけではありません。
また、完全復元したサイトを一個人である私が公開するのは「公式と誤認させる行為」にあたり、結局これも問題です。
つまり、「データがないから無理」というだけではなく、「データがあっても権利的にそのまま公開できるわけではない」という二重の問題があります。
じゃあどうする?
上記の理由で完全再現が難しいのであれば、このドメインでなにができるのでしょうか。
せっかく取得したので、何かしらのサイトは建てたいところです。
私が作ろうとしているのは、「当時のTOT1899.comのコンテンツを記録・再現することを目的としたアーカイブサイト」です。
サイトの完全復元を目指すのではなく、当時TOT1899.comがどのようなサイトだったのか、どんなコンテンツがあったのかを、記録として残し、再現することです。
そのためには、私がTOT1899.comを運営する上で大切にしようとしている方針が4つあります。
- オリエンタルランドおよび東京ディズニーリゾートといった公式が運営するサイトではないことを明確にする。公式と誤認させないようにする。
- あくまで当時のコンテンツを記録する立場であることを明確にする。
- 完全に非営利で運営する。(収益化した時点で「記録目的」という立場が薄れるから。)
- 当時の画像・音声・プログラムをそのまま流用せず、全てをゼロから実装し直す。
実は今回この記事を出したのは、この4つの方針を事前に周知しておき、気兼ねなくTOT1899.comにサイトを公開したいと思ったからです。
できることには限りがありますが、当時の雰囲気をできる限り当時のまま伝え、資料として残し、当時このサイトを見たことがない方にも「あの頃こんなサイトがあったんだ」と知ってもらえるサイトにはできると考えています。
お楽しみに!



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