このブログでは、ノーチラス号に関するある疑問について、繰り返し議論してきました。
それは「東京版ノーチラス号の動力が蒸気機関なのか、または電気駆動なのか」という疑問です。
この議題についてはずっと私しか騒いできませんでしたが、そろそろ私の中で終止符を打つべく、この記事を書きました。最後に自分なりの結論も述べているので、ぜひ最後までご覧ください。
ノーチラス号の派生
まず本題に入る前に、ノーチラス号の派生について軽くおさらいしておきましょう。
ノーチラス号は、ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』に登場する有名な潜水艦であり、以下のような派生があります。

- 小説版(原作): ヴェルヌが描いたノーチラス号のオリジナルバージョン。ほとんどのSF作品に登場するノーチラス号の元ネタ。
- ディズニー映画版(1954年): ウォルト・ディズニー・プロダクションが小説を映画化したもの。小説とは異なるデザインやスペックのノーチラス号が登場。
- ディズニーランド・パリ版: 映画版ノーチラス号のデザインを完全再現。ウォークスルーアトラクションとして内部にも入ることができる。
- 東京ディズニーシー版: 外観は映画版ノーチラス号に忠実だが、内部には入れず詳細な解説もなし。
このように、小説版ノーチラス号を起点として、ディズニーの映画やパークにノーチラス号のバージョンが展開されています。
今回主題の動力とエネルギー源についてはそれぞれのバージョンで設定が異なります。特に東京ディズニーシー版の動力設定には疑問点が多く残ります。現状わかっていることをまとめると、以下のような感じです。
小説版 | ディズニー映画版 | ディズニーランドパリ版 | ディズニーシー版 | |
---|---|---|---|---|
形状 | ![]() | ![]() | ![]() | ![]() |
サイズ | 70m | 言及なし | 70mという設定 (実物は45mくらい) | 言及なし (実物は35mくらい) |
エネルギー源 | ナトリウム電池 | 未知のエネルギー (原子力を示唆) | 映画版と同じエネルギー | ? |
エンジン | 電気モーターの類 | 蒸気機関 (Walking-Beamエンジン) | 蒸気機関 (Walking-Beamエンジン) | ? |
今回の主題は「ディズニーシー版の動力が何なのか」ですので、小説版、映画版、パリ版のノーチラス号の動力がなぜこの表のように分類されるのかについては、この記事で詳しい解説は行いません。本当は詳しく書きたかったところですが、本題に入る前に文章が長くなりすぎてしまうため今回は省略します。
今回はあくまでディズニーシー版のみに注目します。もし他の三つの動力について詳しく知りたい方がいれば、以前詳しく解説した記事があるのでそちらをご覧ください。
ディズニーシー版ノーチラス号の動力問題
さてここからが本題です。
そもそもこの記事のテーマは、「東京ディズニーシー版ノーチラス号が蒸気機関なのか、電気駆動なのか」という疑問でした。

東京ディズニーシー版のノーチラス号は、映画版のデザインを踏襲しながらも、艦内や動力設定に関する公式な説明が一切ないという特徴があります。
つまり、自然に考えれば東京版ノーチラス号も蒸気機関のはずなのです。なぜなら、ディズニー映画版ノーチラス号、そしてそれをパークに再現したパリ版ノーチラス号のいずれもが、蒸気機関であるからです。公式な説明が何も無い以上、デザインが完全に一致している東京版も同じ仕様であると考えるのが妥当です。
話をややこしくしている3つの資料
「じゃあなんで電気説があるの?」と疑問に思われるかもしれませんが、実は話をややこしくしている3つの資料が存在しているのです。私としては「蒸気機関説」を推しているのですが、この三つの資料に正直頭を抱えていました。
資料1:東京版で唯一のプロップス
実は東京ディズニーシーには、ノーチラス号に言及したプロップスが一つだけあります。

NAUTILUS
BEHOLD THE NAUTILUS — PERHAPS MY GREATEST CREATION!
IT IS THE WORLD’S FIRST AND ONLY SELF-CONTAINED AND POWERED SUBMERSIBLE BOAT.
ノーチラス号
私の最も誇りとする発明品、ノーチラス号を見よ!
この潜水艇は、世界で初めて艦内での自給自足を可能とし、しかも自ら発電して推進力を得るという類い稀なる特徴を持っている。
なんと、ここではっきり「自ら発電して推進力を得る」と言及されています!?つまり「電気説」で確定ということでしょうか!?
いや、ちょっと待ってください。英語の文章をよく読んでみましょう。実はこの英語文章では「電気」なんて一言も言っていないのです。
例えば「SELF-CONTAINED」は「自給自足の」「自己完結した」という意味で、これはそのまま正しく日本語文章に反映されていますよね。一方で「POWERED」という単語についてはどうでしょう。これにはせいぜい「動力付きの」といった意味しかないはずですが、日本語文章では「自ら発電して推進力を得る」と翻訳されており、電気の話がどこから来たのか、まるで意味がわかりません。
これはあくまで可能性ですが、これを日本語に翻訳した人は事前に小説の『海底二万里』を読み、「へ〜、ノーチラス号って電気で動くんだ〜。」と理解し、気を利かせてこの文章に反映させてしまったのではないでしょうか。小説版と映画版のノーチラス号に違いがあることはなかなか把握できなかったと思うので、これは仕方がないのかもしれません。
資料2:公式ブログ
東京ディズニーリゾート公式ブログは、ノーチラス号の動力について次のように言及しています。
艦内での完全な自給自足を可能としています。しかもノーチラス号は人類の科学を超越した特殊な自家発電によって推進力を得ているんですよ。
ふーん、公式ブログ君も電気とか言ってるんだ…。
でもこの文章、すごく既視感ありませんか?
この文章をよくみると、その内容は、さっき紹介したプロップスに書かれている日本語文章ほぼそのままなのです。
つまり、このブログを書いた人は、さっきのプロップスの日本語文章を公式ブログに落とし込んだだけの可能性が高いのです。
その場合、この公式ブログはなんの証拠にもなりません。
資料3:海の絵本
講談社の『海の絵本』もノーチラス号の動力について触れています。
そもそも『海の絵本』は、内容がちょっと怪しい部分がいくつか見受けられ、信憑性については「たまに怪しい」と言ったところです。
そんな『海の絵本』ですが、ノーチラス号については以下のように述べています。
この船は、海水に含まれる塩化ナトリウムを利用して、自力で電力を供給できるという機能をもっている
ウォルト・ディズニー・ジャパン. (2005). 海の絵本. 講談社.
これ明らかに小説版ノーチラス号の「ナトリウム電池」のことを言っていますね。
小説版ノーチラス号は「ナトリウム電池」よって電力が供給されています。これはブンゼン電池の亜鉛をナトリウムに置き換えたもので、従来の亜鉛を用いる場合の2倍の電力を発電できると小説内で述べられています。
ここで消費されるナトリウムは海水から抽出されており、そのために必要な熱エネルギーも海底の炭鉱で賄われています。
パーク内のプロップスで「これはナトリウム電池で動いているんだよ」と説明されているならまだしも、そのようなプロップスはどこにもないのに、『海の絵本』はなぜナトリウム電池だと言い切っているのか不思議です。
おそらく、『海の絵本』の著者または監修者も小説を読んだのです。彼らは小説版と映画版のノーチラス号に違いがあることは把握していなかったと思うので、小説版の設定を『海の絵本』にそのまま書いたのだと思われます。
現状をまとめると、「パークの日本語プロップス」、「公式ブログ」、「海の絵本」の3つの資料が、ノーチラス号は電気で動くと述べていますが、いずれも信憑性に欠けていて、私としては全然「電気説」を受け入れられません(というか受け入れたくありません)。
「蒸気機関説」を裏付ける唯一の情報
つい最近新たな気づきがありました。
ノーチラスギャレーの席に座っていると、ノーチラス号から発せられている音に聞き覚えがあることに気づきました。その「音」を録音したので次の動画から聴いてみてください。
実はこの音、先述したディズニー映画版『海底二万マイル』で全く同じ音を聴くことができるのです。
その音を聞くことができるのが、劇中の動力室のシーンです。この独特な音は、劇中のノーチラス号が映る他のシーンでも何度か聞こえるのですが、動力室のシーンで最も大きく聞こえることから、動力室がこの音の発生源であることがわかります。
さすがにこのブログに映画の切り抜きは貼りたくないのですが、だいたい55分あたりのシーンなので、Disney+契約している方や、DVD、Blueray持っている方はぜひ聴いてみてくださいね。
20,000 Leagues Under the Sea (1954年、監督:Richard Fleischer、製作:Walt Disney Productions), at 0:55.
動力音が同じということは、動力が映画版と同じ蒸気機関であるという強い根拠になります。
少なくとも「ナトリウム電池」から発せられる音ではないですね。
とは言え、メタ的に考えると、単にイマジニアが映画内の音声をそのままノーチラス号のBGMとして使用しているだけで、動力のことまでは考えていない可能性は全然ありますがね。
まとめ
現状をまとめると、東京ディズニーシー版のノーチラス号の動力は、
- 「プロップス日本語訳」、「公式ブログ」、「海の絵本」を参考にすると電気駆動っぽい
- ノーチラス号の外観、BGMを参考にすると蒸気機関っぽい
という状況です。

悲しいことを言うと、おそらくイマジニアはノーチラス号の動力のことまできちんと考えてミステリアスアイランドを作っていません。もしそこがしっかりと考慮されていたのならば、ディズニーランドパリ版のノーチラス号のように、必ずプロップスなどの形でその設定を残してくれたはずです。
ディズニーシーのノーチラス号はパリ版のように内部に入ることもできないので、そこまで詳細ストーリーを詰める必要がないのは腑に落ちますし、もっとポジティブに捉えると、こういう考察の余地ができて良かったとも思えます。
とにかく答えはない!
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